『麦香る時間』は麦芽使用率を従来製品の2倍にしたというのが売りである。麦の風味が豊かで、麦が香ってくるということで『麦香る時間』と名づけたのだろう。
しかし、ここで素朴な疑問が出てくる。そもそも発泡酒とは、日本においては、麦芽比率を低くすることで酒税を安くすることを目的とした商品である。
普通に考えて、麦芽比率をアップするということはその流れに逆行しているのではないかという疑問が沸いてくる。
実際、『麦香る時間』しいろいろな矛盾に満ちた酒である。
そして、『麦香る時間』について考えていくと、現在の発泡酒の置かれた苦しい現状が詳らかになってくる。
まずは、発泡酒の生まれた背景から振り返ってみよう。
日本の酒税は高く、企業努力では製品化価格を下げようがないという苦しい状況であった。ビールの酒税は特に割高感があり、他の安い酒に押されつつあった。
そこで考えられたのが発泡酒。酒税法上、麦芽比率によって酒税が違っていることに目をつけた『節税ビール』であった。
ビールと名乗るためには、麦芽比率が66.7%以上なくてはならない。逆に言うと、そうでないものはビールでなくなり、ビールより安い税率で済むことになる。
ここに目をつけたのが発泡酒であった。
当初の発泡酒は麦芽比率をぎりぎり下げたものであった。
この点は『麦香る時間』について考える時も意味を持ってくる。
実は、麦芽比率66.7%以下の酒は発泡酒として一率に同じ税率がかかるというわけではない。麦芽比率によって税率も何段階かに別れている。
当初は低い麦芽比率ではビールの代替品としての味を実現することができなかったので、66.7%をギリギリ下回る発泡酒しかなかったが、やがて技術革新によって、麦芽比率を相当低くした発泡酒も発売されるようになった。
しかし、発泡酒という節税ビールを財務当局は面白く思っていなかった。発泡酒の税率はアップし、安いという発泡酒のメリットはほぼ失われた。
かわって登場したのが麦芽使用率ゼロのいわゆる『第三のビール』であった。
『第三のビール』は安いということであっという間に広がって、ビール市場の主役級に踊り出た。一方で『プレミアムビール』市場も生まれ、ビールの市場は二分化していった。
その結果、発泡酒はうまくないがまずくもない、高くもないが安くもないという、非常に中途半端な存在になってしまった。
これが、冒頭に述べた『発泡酒の置かれた苦しい現状』である。
それを打破しようとして、発泡酒にプレミアムをつけたのが『麦香る時間』なのだが、発泡酒にプレミアムを付けるということ自体自己矛盾に陥っているのである。麦芽比率を下げてきたという発泡酒の歴史にも逆行している。
そもそも昔の普通の発泡酒は、『麦香る時間』に匹敵するかそれ以上の麦芽比率を有していた。
更に言えば、ビールは『麦香る時間』よりも麦芽比率が高い。当たり前である。ビールの麦芽比率を低くしたものが発泡酒だからである。
麦芽比率の高い発泡酒を飲むなら、ビール飲んだほうがいいじゃん、という素朴な意見に『麦香る時間』は答える術を持っていない。
確かに、ビールよりは値段が安いが、他の発泡酒や第三のビールに比べれば高い。
『麦香る時間』は麦が香ってくるのは間違いないし、本生ゴールドで使っている787酵母を使っているせいもあり、比較的どっしりした味わいである。うまいと言ってもいいと思う。
しかし、うまければうまいほど発泡酒としての自己矛盾が際立ってくるという苦しい立場にある。ビールに比べて劣るのは間違いないのだから。
まとめると、『麦香る時間』は割とどっしりして飲みごたえがあるが、味ではビールに及ばず、値段的には第三のビールに遠く及ばない酒である。
また、麦芽比率をアップした努力は素晴らしいと思うが、それによって発泡酒の存在意義な疑問符が投げかけられる結果になってしまったことも指摘しておかなくてはならないだろう。
ただ、酒税法に問題が多々あるので、メーカーを一方的に批判するのもおかしいと思う。
ビールと発泡酒の区別も実はかなり相対的である。日本の多くのビールは麦芽比率が100%ではないからである。ビールであるか発泡酒であるかは酒税法で線が引かれてはいるもののかなりあいまいなのである。
個人的にはそれはそれでいいと思う。ドイツのように100%でなければビールでないとする必要は必ずしもないであろう。
しかし、麦芽比率によって税率が変化するのはいかがなものか。やはり、麦芽比率にかかわりなく、アルコール度数に応じた酒税を課すべきだと思う。
また、特にビールの酒税が高すぎるということも指摘しておきたい。
『麦香る時間』はそうしたビールや発泡酒をめぐる様々なことを考えさせてくれる酒であった。
原材料 麦芽・ホップ・大麦・発芽玄米・スターチ
麦芽使用比率 25%以上50%未満
アルコール分 5.5%
今日、ニュースで知りましたが、とうとう第三のビールも増税の対象になるとか。
企業と、政府のいたちごっこを食い止めるために「酒税法」そのものを見直す方針だとか。
ビールも発泡酒も第三のビールも値段がそんなに変わらなくなってしまったら、企業の努力は水の泡ですね。
僕は酒税法の見直し自体には賛成です。
日本では、似たような酒なのに税率が違うという不平等があります。
ビールだけでなく、焼酎とウイスキーとか。麦焼酎とウイスキーは同じ麦が原料の蒸留酒なのに、なんで税率が違うのか等、疑問が残ります。
問題なのは、なぜか高いほうを安いほうに近づけるのではなく、安いほうを高いほうに近づけることばかり行われます。
ビールや発泡酒の間にも税率の不平等がありますが、僕はビールの税率を下げることによって不平等を解消すべきだと考えています。
特に、ビールの税率は高すぎます。ビールの税率が下がればメーカー間の健全な競争が促進されると思います。
もっと安い値段でお酒が楽しめるようになるといいなと思っています。
拙Blogにも書きましたが、「飲まれる量が多いからゴソッと税をとる」のではなく「税率下げて消費する量を増やして以前と変わらぬ税収を取る」のほうが、結果として内需の拡大に繋がるのでは‥とかんがえるんですけどね。
早速ブログ拝見しました。とてもよくまとまってますね。
特に、『麦香る時』の記事の最後の文章が気に入りました。と言うのも、僕も同じニュアンスのことを書きたかったし、実際に書いたのですが、Hiro-Mさんの表現にはかないません。
僕が言いたかったことはあの最後の一文に凝縮されてます。
僕のブログで発泡酒や『麦香る時』に興味を持った人はトラックバックからHiro-Mさんのブログに飛んでみてください。
僕も酒税の取り方には疑問があります。
かつての間接税がない時代ならともかく、今はどんな物品にも一律に消費税が取られています。その上に、酒税が上乗せされているのはなぜなのか、大いに疑問があります。
確かに、飲みすぎると健康を損ねますし、酔って他人に迷惑をかける可能性もあるのは事実です。
その点を考慮しても酒税は高すぎます。なんとかしてほしいです。